anemog and the City

あれも、これも。どこででも。

タクシーの運ちゃん


その金曜日は企画が全く進まず、午前4時に見切りをつけて帰社することに。
午後からずっと考えていたにも関わらず、終わらない企画立案。
ここのところ、休んでない。 有休も代休も、消化しきれないことが当然のような日々。 1日でも、ゆっくりと、ぼーっと出来る日を夢見る日々。
そのストレスに加えて、月曜日の朝の締め切りの企画立て。
もしかして、向いてないのかな?この仕事は・・・。


会社の前の道路で並んでいるタクシーの1台を捕まえる。 行き先を告げ、近くなったら声をかけてください、とお願いして、横になる。 酔っぱらいと思われるかな。 もう、そんなこともどうでもいい。

初老の運転手が操るタクシーは、始めの曲がり角を左折したようだ。 明らかに、いつもと違うコースを走っている。 おかしいな。 でも一刻も早く眠りたかった。 まあ、着くことは着くだろう。 何も言わずに横になり続ける。



10分ほど走ったかと思われる頃、低い声で、呟きのような、私に聞こえるか聞こえないか、そんな声で、運転手が呟いた。

「桜、満開ですね…」


目を開けると、視界の隅に、薄い照明で照らされている桜が飛び込んできた。


キレイだ。


あれ、桜って、こんなに綺麗だったっけ。



体を起こして、窓にへばりつく。 100メートルほども続く、桜並木。 その桜並木が途切れると、また次の桜並木が現れる。 照明の違いによって、桜は次々にその表情を変えていく。

少しの間、見とれていると、その初老の運転手は、今度ははっきりと、こう言った。

「桜を見ると、元気が出ます。」




スッ、と心に何かが入ってきた。
風?

何だろう。 学生の頃の、2時間ぶっ続けの試験が終わって、一呼吸をやっと付けたときのような、そんな風。

気づかないうちに、頭も、心も、凝り固まっていたんだろうか。 自分では見えなかった「おもし」が、ふっと取り除かれたような、そんな気持ちになる。




降り際に、念のために聞いてみた。 あの道を選んだのは、理由があるんですか、と。 でも、運転手は、いや、特にないですよ、と笑って答えた。









と、無意味に小説風にしてみました。 あー疲れた。